木造3階建の小さな建築は,京都御所近くに位置する。この地域は京都市の景観規制を受ける地区であり,特定勾配の屋根や庇の出寸法,ファサードの壁面後退,仕上げ材などの制約を考慮した,伝統的な外観が求められる。 20坪程度の角地となる細長い敷地は,2面を道路に面した開放感という利点を有する一方で,2方向からの道路斜線の高さ規制を受ける難点も持ち合わせる。課題となるのは,その制約の中に家族5人の現代的な生活機能を充足させるという点である。狭小地のため,行政との協議により,敷地の一方は景観規制の緩和が認められたものの,角地としての建ち方に違和感を覚えたところから計画が始まった。そこで,いかに立体的に屋根・庇形状や壁面後退のあり方を解くかに主眼をおき,「2方向がいずれも正面である」という建ち方を意図し,規制をうけるラインからボリュームを削り出すような操作で検討を進めた。結果として,双方に対して平入り屋根にすることで連続する水平な軒先ラインを強調し,外壁面を平面,断面ともに可能な限り分節した街並みスケールの建ち方が生まれた。内部空間は,水回り/LDK /寝室を各階に割り振った構成とし,空に抜ける光井戸として計画した坪庭と,3層を貫く直線階段,寄棟の屋根勾配に沿った天井という3つの要素が,自然光と照明光の力と仕上げ材に用いた奥行きのある左官材の力を借り,閉じた箱の中に開放感をもたらしている。