コロナ禍を経て,足掛け4年の住宅プロジェクトである。その間,世の中の生活様式も家族の状況も大きく変化した。計画が再出発を迎えた際「安寧の場」を思い描いたのは,自然な流れといえよう。狭隘道路に面した敷地において,プライバシーが保たれ,光や風が適切に入り込む環境のもとに,安らかさを象徴するような住まいの在り方を模索した。 上下階とも,方形の平面計画に素直に合わせて諸室を配置した。いわゆる廊下は存在しない。下階の中心には各所へのハブ機能としてキッチンを置き,その周辺のリビング,ダイニング,和室には回遊性をもたせた。上階の中心は,あえて機能をもたない広間である。4つの個室に取り巻かれた広間では,中心に据えた2本の柱がシンプルな屋根架構をそのまま現した天井を支える。個室は独立したものでありながら,ガラス天井越しに屋根にすっぽりと覆われたような,おおらかな繋がりのある空間とした。常に中心が浮かび上がる,原初的な居場所としての広間である。