伏見は桃山陵のふもとに計画した,事務所付き長屋である。桃山陵を背景とし,2階の高さから前面に醍醐の街並みを一望する立地である。傾斜のある住宅街の中で,敷地は2面を緩やかな勾配を持った道路に面する角地となる。平坦な住宅街と比較して,隣地とはそれぞれ異なるグランドレベルを獲得できるのが,こうした敷地の利点ともいえる。周囲住宅は高い塀で閉じた建ち方をしている一方で,この敷地では別の建ち方が実現できる可能性を感じた。すなわち,30度程度の法面を有する地形の上に上層が下層より一回り大きな床面積となる2層構成の箱を浮かべ,それを取り巻くように緑の帯を整えることで,敷地形状や地域とのつながりを優先した。上下階の面積の差分は,緑に対して開放したバルコニーとし,周辺に対して開く住まいを実現した。また,角地に対して開放的な立面構成は,スケール感を意識し,構造ピッチを素直に建具割で表現した。大地に近い場所と天空に近い場所を対比的にデザインしつつ、全体として,緑に囲まれたバルコニーは街並みに新しい風景を形成する。 なお,機能面については,異なる層を貫く2つのヴォイド(事務所と長屋を隔てる水平ヴォイド,二つの階を天へと貫く垂直ヴォイド)を挿入することで,明確に区分した。